骨粗しょう症のお薬と抜歯

こんにちは、口腔外科を担当しております歯科医師の鈴木です。

今回は年配の方に多い『骨粗しょう症』で飲んでいるお薬と抜歯についてお話したいと思います。


今まで、骨粗しょう症の薬である、『ビスホスホネート製剤』は骨の密度を低くさせない代わりに骨を作る作用も止めてしまうので、この薬を飲んでいる患者さんは抜歯をすることができませんでした。

しかし最近の骨粗しょう症の薬はかなり進化していて、また抜歯も可能なようです。



はじめに
2010年にはじめて日本での骨粗しょう症のお薬が、抜歯などで骨の壊死をもたらすとされていた、『薬剤関連顎骨壊死(MRONJ)』の発表されてから約10年が経ち、臨床研究や症例の蓄積により新たな知見が増えました。
それによると、「抜歯前の骨粗しょう症のお薬の休薬の効果に対する根拠はない」とされていて、当初から比較するとMRONJに対する認識は大きく変わってきています。


薬剤関連顎骨壊死(MRONJ)とは?
この薬剤関連顎骨壊死とはどういう状態のことかと言うと、「骨粗しょう症のお薬や注射を使用している患者さんで、8週間以上口の中に骨が露出した状態が持続されており、かつ、以前に顔に放射線治療を受けいない場合」のことを示します。


薬剤関連顎骨壊死になってしまう可能性のある人は、以下のいずれかに含まれます。
① 骨粗しょう症やがんの治療で、ビスホスホネート製剤を使用している。
② 骨粗しょう症やがんの治療で、デノスマブを使用している。(デノスマブは注射製剤のみになります。)
③ がんやそのほかの疾患の治療で、血管新生抑制剤を使用している。


抜歯前の休薬は、顎骨壊死の発生を予防しない
2010年に日本では、抜歯前は骨粗しょう症のお薬の休薬することが推奨されていました。

その後、2016年の発表では、骨粗しょう症のお薬の休薬の効果はMRONJの発症予防の関連は不明であること、また発生回数に基づいたMRONJ発症のリスクよりも骨折予防の利益の方がまさることや、歯科治療前の感染予防を十分に行えばMRONJは減少することなどから、歯科治療前の休薬を指示する根拠はないとされています。


また2017年には、休薬が顎骨壊死の治療の成績向上に与える影響がないこと、逆に骨折のリスクを高めてしまうとの報告があります。


抜歯はMRONJの発症リスク要因になってない
あるデータでは、MRONJの発症は抜歯を契機に発症したのが2割で、その他8割は抜歯と関係なく発症しています。

つまりは、抜歯を行わなくてもMRONJは多く発生していることになります。
故に、むしろ抜歯の原因になった細菌感染こそがMRONJの発生に深い関わりをもつのです。

感染源になる要抜歯の歯は、早めに抜歯を行うことが推奨されています。


MRONJの予防
このMRONJの発生を抑えたり予防するには、口腔衛生管理や適切な歯科治療が重要と考えられています。

不衛生な口腔内からMRONJは自然発症する例も多く報告されている事から、特に口腔衛生管理が最も重要であり、骨粗しょう症のお薬を服用している患者さんには3ヶ月ごとの口腔ケアを行った場合、10倍のMRONJの発生予防効果があることが実際に公表されています。

一番の予防は定期検診が重要であります。


まとめ
近年は、50才以上の女性の3人に1人が骨粗しょう症になる時代です。

誰もが骨粗しょう症のお薬を飲むようになることが普通になる時代です。
最初に当院に通院したときには骨粗しょう症のお薬は飲んでなかったとしても、もし骨粗しょう症のお薬の治療が始まるも多くありますので、骨粗しょう症のお薬が始まったらできるだけ速やかにご報告されて下さい。
患者さんの中には、歯科治療をすることがダメだと誤解をしている方もまだ多くいらっしゃると思いますので、多くは適切なお口の中のケアと感染源の抜歯は、健康にさらに役立つので、スタッフ一同一丸となって適切な治療をおこないます。



当院では、通院されている内科や整形外科の先生方とも連携して適切な注意を仰ぎ、医師の先生との連携を大切にして、患者さんにとって一番よい時期や方法で抜歯を行っていますのでどうぞご安心なさって下さい。
歯科治療、口腔ケアを受けることによって顎骨壊死の多くは予防できますので、定期検診の重要性はとても効果があります。



口腔外科・歯科医師 鈴木