非歯原性歯痛

今回は、歯が痛いにもかかわらず、痛みの原因が歯ではない場合についてご紹介致します。
1・歯はどんな時に痛むのか?
通常は歯が痛い場合、虫歯だったり歯周病で痛い場合がほとんどです。
ほかには歯が割れたり折れたり、ぶつかって脱臼した状態の時ももちろん歯が痛みます。
虫歯の場合は、歯が細菌が出す酸によって溶けることで歯の中の神経(歯髄)に刺激が伝わり痛みとなって脳に信号が送られます。
歯周病の場合は、歯ぐきが腫れて膿を持ち、骨が溶けてしまいます。
そうなると歯がグラグラして歯を支えている骨や歯ぐき(歯周組織)が痛くなったり、歯の根が露出してしみるようになり歯が痛みます。また歯と歯を支えている骨をつないでいる『歯根膜』という繊維が引っ張られて痛みが出ます。
しかし、歯や歯の周りの歯周組織が原因でないのに歯が痛むことがあります。
このような場合の痛みを 『非歯原性歯痛』 (ひしげんせいしつう)といいます。
歯が痛くなって歯科医院に行き、レントゲンを撮ってもらったりしても何もないため、「しばらく様子を見て下さい」 と言われてしまいます。
『非歯原性歯痛』 の場合、様子を見ても痛みがおさまらない場合があるので、本人もどうしたらいいのか分からなくなってしまいます。
この、歯自体はなんとも無いのに歯が痛い、『非歯原性歯痛』 にも様々な原因があるため、歯科医院で何が原因なのかしっかりと把握してもらって、適切な処置を受ける必要があります。
ちなみに 『非歯原性歯痛』 に関しては、私が所属しています日本口腔顔面痛学会では以下のように分類されています。
https://jorofacialpain.sakura.ne.jp/?page_id=3129
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いかがでしょうか? 『非歯原性歯痛』 にもこのようなさまざまな原因があります。
お口の周り、口腔領域以外の原因に関しては、残念ながら歯科医院で治すことはできません。
今回は、この分類の中でも比較的頻度が高い、『①筋・筋膜性歯痛』 をご紹介致します。
2・筋・筋膜性歯痛について
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上記の画像は、左側が噛むための筋肉の一つ  『咬筋』 からの痛み、右側が同じく噛むための筋肉の一つ  『側頭筋』 という筋肉の筋膜痛を示します。
これはどういうことかというと、筋肉痛にもかかわらず、歯が痛いと錯覚してしまうのです。
なぜこのように錯覚を起こすのかというと、筋肉の痛い部分(トリガーポイント)を5秒間圧迫すると、関連痛として歯の痛みとして感じてしまうという事実があります。
咬筋のトリガーポイントを押すと、上の奥歯に痛みがでます。
側頭筋のトリガーポイントを押すと、側頭筋の前の方では上の歯の前歯、後ろの方では上下の奥歯に痛みが生じる場合が多いです。
痛みの特徴としては、ずーっと重い鈍痛、長い痛みの時間を感じます。
それからストレスがかかるとより一層悪化します(休日には楽になるなど)。
同じ姿勢を30分以上すると悪化する。
なお、原因不明の歯の痛みの78.8%がこの筋膜痛を感じるといった報告もあります。
また、増悪する原因として、筋肉痛である肩こり、首こりで悪化するといった報告もあります。
3・筋・筋膜性歯痛の治し方について
咬筋や側頭筋を触わって歯が痛む場合は、筋・筋膜性歯痛だと考えられます。
その場合は、ご自身で行えるセルフストレッチや、歯科医院で行うレーザー療法などの理学療法、お口の開口訓練などの治療方法があります。
(セルフストレッチに関しては必ず歯科医師の指示の下で行ってください。
自己流で行うとかえって症状が悪化する場合があります。また肩こりと違うので指で強くグリグリと押したり、ハンディマッサージ機などで強い刺激を与えないようにしてください)
筋・筋膜性歯痛を診査・治療するうえで大事なことは、診るべきポイントは歯だけではないということです。
下の歯を支えている下顎骨はフリーな状態になっていて、いろいろな筋肉と繋がっています。
この下顎骨は鎖骨などとも筋肉がくっついて全身の体の一部ですので、広い視野を広げて全身の状態を診察しながら診断をする必要があります。
実際に、この筋肉痛が脊髄に痛み刺激として入った時に、脊髄で収束や投射といった反応が起こり歯に痛みが生じます。
歯の神経はとても繊細です。また、歯に関連する感覚はすべて痛みとして感じます。
歯に伝わっている神経は頭の中の神経、12神経の中の一つですので、このような現象が起こるので、注意しながら診察していく必要があります。
当院では原因不明の歯の痛みがある場合には、口腔外科担当医が診察をいたします。
また状況に応じて、専門の大学病院にご紹介することが可能です。
もしもこのような症状をお持ちでしたら、お気軽にスタッフまでご相談下さい。
口腔外科医 歯科医師 鈴木